『9神との接触』とアリス・ベイリーの本

リン・ピクネットとクライブ・プリンスの『火星+エジプト文明の創造者[9神]との接触』林陽 訳(徳間書店、2004年)という本がある。原題は“The Stargate Conspiracy”で陰謀に関する本だ。この本にはアリス・ベイリーの本から原爆に関する部分が引用されていたのだが、ひどいことが書かれていたので、アリス・ベイリーの原著と比較してみることにした。
まず『火星+エジプト文明の創造者[9神]との接触』(以下『9神との接触』)から関連部分を引用する。

 私たちはニューエイジの「愛と光」に隠れた極右翼思想をますます憂慮している。だが、憂慮しているのは私たちだけではなかった。女優で脚本家のクリスティー・ファーンが、スイス生まれの画家で作家のモニカ・スジョーが書いた、『ニューエイジチャネリング』という本を、最近送ってくれた。スジョーは過激なフェミニズムの出身だが、ニューエイジチャネリングの多くに潜む、特殊な思想と戦略を心配している。私たちと同じく、現代のニューエイジ創始者、特にマダム・ブラバッキーとアリス・ベーリーの思想に流れる不安な要素を見極め、「九人」と、特に彼らが書かせた『唯一の選びの惑星』を非常に有害と見ている。
 面白いのは、チャネリング教、特に「九人」のそれが、とてもラディカルとはいえないと彼女が見ていることだ。アメリカンドリームと白人至上主義、キリスト教中産階級の価値観とエリート支配の概念の強制が垣間見える、このような教えはCIAなどの諜報機関から来ているのではないかと彼女は推理している。
 スジョーは、ニューエイジのゴッドマザーというべきブラバッキーとベーリー、特に後者の反ユダヤ主義、人種主義、強い父権的色彩を取り上げている。
 原子爆弾ナガサキに投下された日に、ベーリーの指導霊である「チベット人」(DK大師)は、「原爆が宇宙エネルギーを解放することによって新時代を切り開いた」と発言した。さらに、核の閃光を「イニシエートの光」に結びつけた。最も不愉快なのが、数十万人の日本国民の頭上に投下された核の威力についての「チベット人」の考察だ。ベーリーの『ヒエラルキーの外部化』を彼女は引用する。
「DKは、日本人は第四根人種の神経系を持っているので、滅亡する運命にあると話し続けた。『彼らの閉じられた魂が解放されたのは必要な出来事である。日本国民への原爆使用を正当化する理由がここにある』」
(『9神との接触』p.417-418)

アリス・ベイリーの本からの引用部分は、モニカ・スジョーの『ニューエイジチャネリング』からの孫引きになっている。アリス・ベイリー(Alice A.Bailey)の“The Externalisation of the Hierarchy”の問題部分は、491頁から500頁の章「The Release of Atomic Energy. August 9, 1945.」の一部である。
邦訳『ハイラーキーの出現(下)』(AABライブラリー、2006年)から関連部分を引用する。

「原子の分裂」という誤った非科学的な呼び方がされるものを介してこの種の原子エネルギーが放出されるという重大な出来事の背後には、四つの要因がある。他の要因もあるが、次の四つはあなた方にとって非常に興味深く思えるであろう。

a 明確に方向づけられた惑星外のエネルギーの流れが、祈願を聞き届けた解放の主方によって放出された。研究に従事する科学者たちが扱う原子資料にこのエネルギーの衝撃が及んだことによって、科学者たちが成功を収めることを可能にする様々な変化が起こった。したがって、進められていた実験は主観的なものでもあり客観的なものでもあった。

b 第五、第七光線のアシュラムで働く大勢の弟子たちが行った共同での努力が、科学分野で働いている下位の弟子たちに彼らが印象づけることを可能にし、下位の弟子たちが直面していたほとんど乗り越えがたい困難を克服するのを助けた。

c さらに、それまで悪の勢力をうまく団結させていた緊張感が弱まり、枢軸国を率いる邪悪な集団は戦争に付随する疲弊感を克服することが徐々にできなくなっていった。そのため、最初に彼らのマインドが着実に蝕まれ、次に脳と神経組織が蝕まれていった。ヨーロッパにおいて枢軸国の活動の指揮に関わりながら精神状態が正常な者は今日一人もいない。彼らはすべて何らかの肉体の損傷に苦しんでいる。これは、あなた方には認識しがたいかもしれないが、彼らが敗北した本当の要因であった。日本人の場合はそうではない。日本人の精神構造は、第四根本人種の特質を持つ神経組織と同様に、全く異なっている。日本人は物理的な戦争手段、戦争遂行能力の物理的な破壊、形態様相の死によって敗北するであろう。そして、現に敗北しつつある。この破壊……そしてその結果としての、牢獄に閉じこめられた日本人の魂の解放は必要な出来事である。これは日本人に対する原子爆弾の使用を正当化するものである。この放出されたエネルギーの最初の使用は破壊的であったが、それは形態の破壊であって、――枢軸国側の努力目標であった――霊的な価値観の破壊と人間の霊の死ではなかったということに思いを至らせてほしい。
 (良いものも悪いものも含めて)あらゆる成功が緊張点の持続にかかっているということを忘れないようにしなさい。緊張点を持続させるためには、すべてのメンタル的、情緒的、肉体的なエネルギーを計画的な活動の中心点にダイナミックに集中することが必要である。ちなみに、これがあらゆる真の瞑想の目標である。ドイツ国民はこの緊張を保つのに失敗した。そのため戦争に負けることになった。ドイツ国民の緊張が途切れたのは、解放の主方の活動によって緊張が強められたときにハイラーキーが到達することのできた緊張点を、受動的なドイツ国民を印象づけていた悪の勢力のグループは達成することができなかったからである。

d もう一つの要因は、人類自身の絶え間ない祈願的な要求と祈りであった(この要求や祈りははっきり表現される場合もあれば、そうではない場合もあった)。主に恐怖心に駆り立てられ、隷属状態に抵抗して人間の霊を奮い起こそうという生来の衝動に突き動かされた人間がエネルギーを要求せざるをえないほどの状態に至ったため、解放の主方からの直接的な影響のもとでハイラーキーの仕事を大いに促進する経路が創られたのである。
(アリス・ベイリー『ハイラーキーの出現(下)』p.173-174)

原著では次のように書かれている。

c. There was also a weakening of the tension which had hitherto successfully held the forces of evil together, and a growing inability of the evil group at the head of the Axis Powers to surmount the incidental war fatigue. This brought about, first of all, a steady deterioration of their minds, and then of their brains and nervous systems. None of the men involved in the direction of the Axis effort in Europe is today normal psychologically; they are all suffering from some form of physical deterioration, and this has been a real factor in their defeat, though one that may be difficult for you to realise. It is not so in the case of the Japanese, whose psychological make-up is totally different, as are their nervous systems, which are of fourth rootrace quality. They will be and are being defeated by physical war measures and by the destruction physically of their war potential and the death of the form aspect. This destruction . . . . . . and the consequent release of their imprisoned souls, is a necessary happening; it is the justification of the use of the atomic bomb upon the Japanese population. The first use of this released energy has been destructive, but I would remind you that it has been the destruction of forms and not the destruction of spiritual values and the death of the human spirit―as was goal of the Axis effort.
(Bailey, Alice A, The Externalisation of the Hierarchy, Lucis Press, 1957, p.495-496.)

『9神との接触』の引用部で、「DKは、日本人は第四根人種の神経系を持っているので、滅亡する運命にあると話し続けた」のところは、モニカ・スジョーの理解をまとめた部分である。また、翻訳者の林陽氏による序文には次のように書かれている。

私たちは「九人」の歴史とそのメッセージをよく調べる必要がありそうだ。アリス・ベーリーを通してチャネリングしてきた初期の「九人」は、原爆投下についてこう言った。
「日本人は第四根人種の神経系を持つ滅亡すべき民である。閉鎖的魂が解放されて当然である。日本人への原爆使用が正しかった理由はここにある」(p.11-12)

引用の形で「滅亡すべき民」と書かれているが、「They will be and are being defeated」とあるのは日本人が戦争に「敗北する」ことで、「滅亡する」こととは意味が違うのではないだろうか。モニカ・スジョーの『ニューエイジチャネリング』から『9神との接触』へと再引用され、翻訳された過程で変更が起きたのだろう。

私はアリス・ベイリーの本を読んだことがある。抜粋をまとめた『トランス・ヒマラヤ密教入門』とその他の何冊かであるが、最近は興味が薄れていた。今回の引用部については、原爆投下は不要だったと考えているので、「チベット人」の見解には納得できないと感じる。しかし『9神との接触』の著者の見解とは違い、アリス・ベイリーの本すべてに問題があるとは考えていない。60年前に当時の弟子たちに向けて書かれたものを、現在の価値観から判断すると、いろいろおかしな部分もあるだろう。また「チベット人」の見解を絶対視することも問題だし、そのような姿勢に対しては序文に注意書きもあった。
アリス・ベイリーの他の本にも原爆について書かれていたので引用する。

原子エネルギーの解放が、惑星の濃密な物質体よりも惑星のエーテル網に遙かに強い影響を与えたことを覚えておいてほしい。原子爆弾は三度使用された。この事実はそれ自体重大である。それは二度は日本に使用され、あなた方が間違って極東と呼んでいる場所のエーテル網が引き裂かれた。また一度は、一般に極西と呼ばれるところで使用された。その度ごとに広範囲な分裂が生じ、それは将来において強力な、そして現在では思いも寄らない結果を生じさせるであろう。
 光と善意のトライアングルの形成――それは本質的に、エネルギーを操作し、望ましい思考パターンを形成することである――は、この引き裂かれた地域と明確に関係している。思考の力について特別な知識を持つ日本人は(戦時中、日本人はこの知識を間違った線に沿って使用した)、このタイプの仕事に対して西洋人の多くよりも知的に反応するであろう。そのため、トライアングル瞑想の線に沿って日本人に影響を与える努力が行われるべきである。
(アリス・ベイリー『新時代の弟子道シリーズ1』AABライブラリー、2002年、p.243-244。Bailey, Alice A, Discipleship in the New Age, Vol.II, Lucis Press,1954, p.61-62.)

この部分はそれほど変なことは書かれていない。アリス・ベイリーの本は主に西洋の人々に向けて書かれたものなので、日本に対してこのような表現になっているのだろう。アリス・ベイリーの本は24冊あり、チベット人が書かせたものは、そのうち18冊くらいだと思う。難解なところが多く、全て読んで理解するのは困難なことだろうし、またその必要もないと考えている。


(2011.5更新)